発行物

福祉のまちづくり研究 Vol.2 No.2(2000年度)

  • 巻頭言
  • 第3回福祉のまちづくり全国大会記録
    • 全国大会の概要 清水浩志郎
    • 基調講演「地域にねざした福祉のまちづくり 加藤邦夫
    • パネルディスカッション「地域における福祉のまちづくりの展開」 清水浩志郎、一関サチ子、一番ヶ瀬康子、岩川徹、北林真知子、丹内モモコ、三浦朝子、加藤邦夫
    • 屋外エクスカーション「秋田県鷹巣町における福祉のまちづくり視察」 木村一裕
    • 研究討論会1「住民参加型福祉のまちづくり」 工藤俊輔
    • 研究討論会2「災害時・緊急時に対応した福祉の町づくりの展開」 折田仁典
    • 研究討論会3「交通バリアフリー法」 秋山哲男
    • 研究討論会4「雪国における福祉のまちづくり展開」 横山 哲
    • 研究発表セッション記録 八藤後 猛、石橋達男、金城正治、藤井直人、石川隆志、奈良 滋、溝端光雄、飯田克弘
  • 研究報告
    • GPSを利用した在宅高齢者の生活圏調査 前川佳史、徳田哲男
  • 研究会活動報告
    • セミナー「まちづくりと交通バリアフリー法~今後の新たな展開~」 九後順子
    • 事務局報告・総会報告 高橋儀平
    • 支部活動報告(関西支部) 三星昭宏
  • 書評

◆ 自立促進モデルのケアマネジメントと福祉のまちづくり

寺山久美子

 「ケアマネジメント」の考え方と技法は、介護保健制度下で活用されることになって俄にクローズアップされ、平成12年4月からは「介護福祉専門員」(ケアマネジャー)も本格的に仕事を開始した。しかしながら、ケアマネジメントは高齢者の介護保健でのみ活用されるものではなく、広く障害児や障害者の地域在宅ケアでも有効で、イギリス、北欧等の地域ケア先進国では実践も進んでいることは識者のすべてに紹介しているところである。おそまきながら日本においても「障害者ケアマネジメント」の厚生省レベルでの討議と都道府県レベルでの施行が実施され、平成15年度からは本格実施の予定と伺っている。

 ところで、日本の理学療法士・作業療法士が、病院等の医療機関から保健所、老人保健施設、障害者福祉センター等の地域の保健医療福祉の場で活動するようになって久しい。しかし、当初その活動内容が「病院での理学療法や作業療法をそのまま持ち込んでいる。地域では役に立たない」との痛烈な批判を関係者から受けた。「生活という視点が抜けている」ことに気付かされ、軌道修正をし、あらたに「地域リハビリテーション活動としての理学療法、作業療法」として出直しをはかることになった。「生活上の障害を把握し、生活の中で有効な援助をおこなう」立場であり、実践が積み重なっていった。

 一方、地域保健での理学療法士・作業療法士への期待も高まり、機能訓練事業や老人保健施設での実践も徐々に増えてきた。ここでも「生活と社会資源に強い理学療法士・作業療法士」が強く要請され出した。

 筆者は、こうしたリハビリテーション職とホームヘルパー、看護婦、保健婦等他職種との混成チームによる「在宅ケアプラン策定とケアマネジメント」の演習作業に助言者として参画する機会が何度か与えられた。ここでわかったことは、①職種により在宅ケアプラン策定上得意とする分野がある。②リハビリテーション・自立促進の視点のケアプランづくりが総体的に弱い、ということであった。

 障害者・高齢者問わず、当事者自身によるセルフマネジメントが原則であるが、援助が必要な場合は「当事者のエンパワメント・リハビリテーション・自立促進の視点が入れ込まれるべきである」と主張したい。このことを保障する具体的メニューとして、理学療法・作業療法等のリハビリテーションサービス等の他、福祉用具、住宅改修等といった生活環境からのアプローチが欠かせない。この中のメニューに、移動・交通、設備等の物理的環境のみでなく心理的・情報的・文化的環境までも含んだ「福祉のまちづくり」サービス(?)を入れ込むことができるなら、21世紀の日本の社会にも多くの希望が持てるのではないだろうか。「21世紀は豊かな時代、心の時代」と予想される。「福祉のまちづくり研究会」はそのような時代の実現のための牽引車として、精力的な活動がますます期待されよう。

◆ 「老いはこうしてつくられる-こころとからだの加齢変化」

正高信男
B5、191貢、中央公論新社 660円+税

この本の題名「老いはこうしてつくられる」につられて本を書架から取りだした。その書評には「またげると思ったバーが超えられない。痛みを表現する適当な言葉が見つからない。このようなとき、人は老いを自覚する。しかし同じ年齢でも気力の充実した人もいれば、見るからに老いを感じさせる人もいる。このような個人差はなぜ出てくるのだろうか。本書は、からだの老化がいかにしてこころの老いを導くのかを独創的発想による実験で具体的に考察しながら、人々がからだの老いを受容し、こころの老いを防ぐ方法を展望する。」とあった。リハビリテーション工学の立場から、「独創的発想による実験」と「老いの個人差」に着目し、自分の仕事に活用できるのではないか?と期待し、そして自分にも間もなくやってくる「老い」に対して、「心の老いを防ぐ方法」にありつけそうだと思って読みました。老化による筋力の衰えに付いては、人間工学から広く知られていることであるが、「痛み」を表現することに対して、「チクチク」「ビリビリ」「ズキズキ」「ガンガン」のような擬音語・擬態語による痛みの程度を正確に表現できなくなる。筆者は、声帯や口周りの筋肉が衰えることにより、発音の緊張度に差が無くなってしまい、体の緊張度も同様になると指摘している。しかし、説明的な表現「針でつつくような」「ヤリで突き通すような」を使用すると若者と同様な痛みの程度を示すことができている。そして「ひらがな」と「漢字」から意味を理解する実験では、「ひらがな」の場合高齢者は時間がかかってしまう。なぜでしょうか?高齢者を理解すること、またあらゆる角度から考察するために工夫された実験で検証する態度は参考になると思います。

(藤井直人)