発行物

◆ ニュースレター No.8


情報のユニバーサルデザインと交通バリアフリー法

1. 情報のユニバーサルデザインとは

関 根 千 佳(ユーディット代表取締役)

 世を挙げて、ITラッシュである。政府の予算もようやく確保され、高齢者・障害者に対応したIT機器を入れなくてはならないということで、福祉機器メーカーは大騒ぎらしい。これまで儲からないといわれながら、ささやかに機器を作ってきていた人々にとっては、やっと風が吹いてきたような印象だろう。

  実際、前期高齢者と呼ばれる元気な層は、パソコンやインターネットの最も大切な見こみ顧客である。20代、30代へのITの普及はほぼ一巡した。しかし、日本にはまだ膨大な市場が残されている。あらゆる市場調査は、元気な50代60代がやりたいことの筆頭に、パソコンやインターネットを挙げている。ネット取引で有名な松井証券の顧客層は、45歳を中心に、きれいなカーブを描いている。通信白書が示す20代、30代をピークとしたITユーザー層とは明らかに違う層が、今後はITのユーザーとなる。また、年齢が高くなるほど、売買額も高い優良顧客なのである。2005年には成人人口の50%以上を占める50代以上は、こだわりを持つ消費者であり、納税者であり、有権者でもある。この人々が今後、なだれを打ってIT産業の顧客になっていくだろう。この層にいち早く対応した企業が、今後は市場を支配することになるかもしれない。

 そのとき、ITはユニバーサルデザインであることが必須である。高齢者と孫が一緒に楽しめるような、使い勝手や内容であることが求められてくるだろう。これまではビジネスのためのものとして設計されてきたIT機器やインターネットのホームページは、今後、家庭で利用されるものとして考えられる必要がある。  しかし、PCのインターフェースそのものは、今はまだ若年層の多いアメリカが標準を握っているため、根本的な解決には至っていない。使いにくいアルファベットのキーボードに苦労し、マウスのダブルクリックと格闘する高齢者を、メーカーの若いデザイナーは認識しているとは言い難い。ユーザー層が声をあげることが必要である。このあたりは、通産省(現経済産業省) の情報処理機器アクセシビリティ指針が1999年に改定され、機器を作る際のメーカーの指針が明確にされている。機器自体にできるだけ配慮を埋めこんだり、支援技術と連動させて動くよう設計するなど、ユニバーサルデザインをより意識したものとなっている。

http://www.kokoroweb.org/guide/index.html

 ただ、米国においては、リハビリテーション法508条の2000年の改定において、政府の調達基準を、障害者にアクセシブルなものでなければ「買ってはいけない」という明確な規定が出されている。これは、連邦政府にIT機器を納入したい世界中のメーカーに適用されるため、アクセシビリティやユニバーサルデザインの配慮が次第に広まるものと思われる。

 また、ホームページの使い勝手やアクセシビリティも、重要な配慮点である。苦労してインターネットにアクセスしても、そのホームページが障害者や高齢者に配慮されていない場合が多いのである。例えば視覚障害者が音声で画面を読む際には、画像にALT というコメントをいれておかないといけないのだが、このことを知ってホームページを作成している人は、福祉関係者でもまだ少ない。柄のある絵の上に文字を書いたり、薄い黄色で文字を書いたりして、高齢者によみにくいサイトを作っている場合も多く、誰もが知らないうちに、加害者になってしまうこともある。ホームページを作成する際には、開発会社に、「アクセシビリティに配慮してください」と、要望することを忘れないでいただきたい。

 高齢者・障害者に配慮したWeb ページの作成方法は、次を参照されたい。

(株)ユーディット 人にやさしいホームページを作成しましょう

http://www.udit-jp.com/ud-what/aguide/index.html

こころWeb からの提案

http://www.kokoroweb.org/tips/index.html

 この件は郵政省( 現総務省) が取り組んでおり、情報バリアフリー委員会などでツールの開発や指針の普及を行っている。2000年11月6日のIT戦略会議でも、今後、省庁のホームページはアクセシビリティに配慮することが宣言された。新省庁のWebサイトに期待する。

 海外においては、Webのアクセシビリティは、ポルトガルのように公的機関のサイトはすべてアクセシブルでなければならないという法律を持つところもあり、欧米では公的機関から率先して配慮を進めている。

 アクセシブルなWebとは、障害者に特化した、特別なものを作ることではない。配慮を中に埋めこみながら、例えば視覚障害者の使う画面読みソフトと、完全に連動できるように作成するのが最もふさわしい解決策である。その際、誰にも魅力的であるように、かっこよく作ることが求められる。Web デザイナーこそ、ユニバーサルデザインを理解する必要があるのだ。

 IT産業にユニバーサルデザインの観点を持ちこむこと。それが、弊社の課題であり、明日はわが身である高齢社会への備えであると思っている。

2. 交通バリアフリー法

 バリアフリーに関する海外の法律の事例は、米国では1990年に「障害を持つアメリカ国民法(ADA )」、英国では1995年に「障害者差別(禁止)法(DDA )」が成立し、これらの経験を前提として日本の交通バリアフリー法ができたと言ってよい。また、わが国の経験においても「福祉のまちづくり」で道路・公園・建築物で20〜30年、鉄道駅のバリアフリーはガイドラインで20年、モデル車両は10年、道路は通達等で30年の経験の上でできたものである。詳細な内容は以下の通りである。

 交通バリアフリー法とは2000年11月に施行された「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」の略称である。この法律の主旨は「高齢者・身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性・安全性の向上を促進するために、@交通事業者によるターミナル施設と車両のバリアフリー化、A市町村による駅及びその周辺の面的整備、の2つである。

@ 交通事業者によるターミナル施設と車両のバリアフリー化

 2010年までのバリアフリーの整備目標を定めている。具体的には、ターミナルは1 日の平均的な利用者が5000人以上の鉄道駅、バスターミナル、旅客船ターミナル、航空旅客ターミナルについて段差の解消、視覚障害者誘導用ブロックの整備、身体障害者用のトイレの設置等のバリアフリー化を実施する。車両については鉄道車両が51000台の30%を達成目標とする。同様に、乗合いバスのノンステップ車両が60000台のうち20〜25%、旅客船が1100隻のうち50%、航空機が420 機の40%が各々目標である。

A 市町村による駅及びその周辺の面的整備

 市町村による駅及びその周辺の面的整備は鉄道駅等の旅客施設を中心とした一定の地区(500 メートル〜1 キロ程度)において、市町村が作成する基本構想に基づき、旅客施設、周辺道路、駅前広場等のバリアフリー化を重点的・一体的に整備する。

 市町村が基本構想を作成する「特定旅客施設」は、1日5000人程度の旅客施設と同程度の利用がある施設、旅客施設を利用する徒歩圏内に、高齢者・身体障害者が利用する施設が多数存在する、などである。

バリアフリー法以後の動き

 交通バリアフリー法以後の動きが少しずつではあるが進んでいる。交通バリアフリー法以後に動きだしたプロジェクトとして、@交通バリアフリー法に係わるガイドライン(運輸省政策局)、A交通バリアフリー法に係わる道路のガイドライン(建設省道路局)、などがある。両者ともバリアフリー法の移動円滑化基準では対応できない部分を強化し、より望ましい施設等を造ることを意図してスタートしたものである。ガイドラインは交通バリアフリー法できめられた基準を補完しより高い水準のターミナルのアクセス確保のための具体的な誘導基準等を検討しているものである。交通バリアフリー法と同様にパブリックコメントを2 −3 月頃に、また、道路についても交通バリアフリー法の円滑化基準を強化・補完するための検討を行なっている。特にユニバーサルデザインの観点が入っていることが特徴である。

 また、バリアフリー法施行前から並行して動いているものとして、B船舶等の指針づくり(運輸系)、Cモデル車両(運輸系)、D視覚障害者の音声誘導(警察庁)、E接遇(運輸系)、F鉄道の段差と隙間(運輸系)、G新幹線のアクセス対策(運輸系)等がある。

 B船舶等の指針づくりは、全くはじめての取り組みで、白紙から作り上げた点でもっとも努力した分野である。Cモデル車両(運輸省)については、バス・タクシーの具体的な寸法等の検討と、車いす使用者対応の技術的な指針の検討、鉄道については、車内のトイレ、車いす使用者のスペース確保等などの検討を行なっている。D視覚障害者の音声誘導(警察庁)は、ピヨピヨ、カッコウの音声の設置方法やその他ITS 導入等の検討を行なっている。E接遇(運輸省)に関しては、障害者の利用にどのように対応するかの接し方や介助の方法を交通事業者向けのプログラムとして策定中である。F鉄道の段差と隙間(運輸省)は、外国と比べ高くなってしまうこと等から望ましい段差とギャップを実験等により検討中である。

※運輸省(運輸系)と建設省は省庁再編により、2001年1 月6 日より国土交通省となっておりますが、本文中は旧称を用いています。

3.ハートビル法と福祉のまちづくり条例改正の動き

高橋 儀平(東洋大学)

 交通バリアフリー法の整備義務化に後押しされるように、ハートビル法の見直しを含む建築物のバリアフリー化の検討が昨年10月より建設省(現国土交通省)内でスタートしました。ハートビル法は1994年の6月に公布されました。この法律は当時制定されつつあった福祉のまちづくり条例の制定を促進するために大きな役割を果たしましたが、法対象である特定建築物の整備を義務化する法ではありませんでした。また学校や共同住宅、事務所などは対象外とされていましたし、既存の建築物の改善についても言及してはいません。また、誘導的基準を満たす認定建築物の促進をPRしてきましたが、平成12年3 月末で1,428件にとどまっています。そこで、今回の検討は本格的な高齢社会に対応するために、これらの課題を再検討し、建築物のバリアフリー化を強化し、地方公共団体の福祉のまちづくり条例を側面から支援する目的で検討されています。

 これまでに3回の委員会が開催され、整備義務化の可能性、整備対象建築物の拡大、整備基準の改正、既存建築物の整備方法などが話し合われています。年度内にもう1回開催される予定で、今年度内に大凡のバリアフリー化方針を確定した後、パブリックコメントに図られることとなっています。現在のところどの段階でパブリックコメントとして公表されるか未定ですが、今後交通バリアフリー法で触れられている重点整備地区の整備の実施に当たって、ハートビル法の義務化が重要であることは間違いありません。

 一方、90年代初頭より制定がはじまった福祉のまちづくり条例も未制定1県(群馬県)を残すのみとなりました。現在ハートビル法の制定前後に条例化した公共団体では順次見直し時期にはいりつつあります。見直しの背景としては、少子高齢社会の進行、交通バリアフリー法などの新規法制度の制定、整備対象範囲の拡大、ユニバーサルデザイン概念の浸透、当事者参加などが挙げられます。既に東京都は見直しを完了し、平成13年1月改正しました。神奈川県でも現在見直し作業中、大阪府でも来年度見直しに着手する予定とされています。

  これまでの見直しの傾向を見ますと、ベビーチェアや乳児室の導入など少子化対策、人工肛門装着者への対応、聴覚障害者などコミュニケーション障害への対応、小規模施設まで含めた整備対象(事前協議)範囲の拡大、整備基準の更新等が挙げられます。しかし依然として、既存の建築物の改善策は今後の課題として残されています。また、模範となるべき公共的施設が必ずしも十分な整備を行っていない場面も見られます。整備後の評価や整備改善への当事者参加については、各自治体とも模索中であるといえます。今後ハートビル法の見直し、交通バリアフリー法の実施と相まって一体的な地域環境の改善計画の立案が急がれます。

※パブリックコメント:交通バリアフリー法にもとづくガイドラインやハートビル法の方針や指針のおおよそのアウトラインが決まった段階で約1 ヶ月程度公表して、その意見をいただいてから最終的なガイドライン等をまとめる手続きのことを言う。

第1回バリアフリー・ユニバーサルデザイン教育シンポジウムのご案内

主催:日本建築学会建築計画委員会
ノーマライゼーション環境委員会
主査 高橋 儀平

 今日における急激な少子高齢社会への移行は、建築や都市施設、あるいは私達が日常利用するさまざまな道具などの計画や設計に大きな変革をもたらしています。

 およそ25年前、欧米諸国から持ち込まれたバリアフリーデザイン、90年代後半、米国から伝播したユニバーサルデザインは、住宅、公共的建築物,まちづくり、あるいはまた市民に対して生活意識の変革を求めています。

 今回のシンポジウムは、このような背景を踏まえて、2000年1月に、全国の居住・建築系教育機関を対象に実施したバリアフリー・ユニバーサルデザイン教育に関するアンケート調査の報告、及び全国各地で先進的な取り組みを展開している教育関係者、行政、民間団体によるシンポジウムが目的ですが、同時に多方面の方々による経験交流を目的としています。

 年度末にお忙しい時期ではありますが、どうぞお誘い合わせて奮ってご参加ください。

  ■主催日本建築学会建築計画委員会ノーマライゼーション環境小委員会
  ■共催日本建築家協会ハートビル部会、福祉のまちづくり研究会
  ■期日2001年2月27日(火)  13:00〜17:00、17:30〜懇親会
  ■会場日本建築学会1階ホール  (最寄り駅 JR山手線田町駅下車3分)
  ■報告とシンポジウム   挨拶: 1:00〜
  報告: 1:15〜

  休憩: 3:30〜3:45
  シンポジウム: 3:45〜5:00
「バリアフリー・ユニバーサルデザイン教育と実践をめぐって」
  シンポジスト:
  懇親会: 17:30〜19:30
  ■対象  建築・デザイン教育関係者、研究者、設計者、企業、自治体関係者、学生等
  ■定員  100名(定員になり次第締め切ります)
  ■参加費 会員2000円、会員外3000円、学生1000円(資料代を含む)
        (共催関係団体の構成員は会員扱いです)
  ■申込方法: あらかじめ下記までFAXまたはe-mailで申し込んで下さい。
         (社団)日本建築学会事務局研究事業部 榎本和正
          TEL:03-3456-2057 FAX:03-3456-2058
          E-mail:enomoto@aij.or.jp

セミナー「高齢社会の都市基盤整備と交通システム」開催のご案内

主催: 土木学会
(土木計画学研究委員会 高齢社会における交通システム整備の体系に関する研究小委員会)
担当: 近畿大学教授 三星 昭宏

 社会の高齢化や人口の減少は、これまでの社会状況がまったく異なる状況へと変化することであり、これからの都市基盤整備の計画や設計の考え方や内容を変える必要がある。その中で、交通システムに関する検討が社会の活力の維持に対して非常に重要である。これに対応すべく、これまでの研究成果や施設の事例を整理し、高齢化の支店から見た計画の考え方・目標・技術・評価など現場で必要とされる体系をつくりあげる必要がある。また、高齢化の進展に対応して、わが国の制度そのものが大きな変革を遂げようとしている。平成12年4月には介護保健がスタートしており、5月には交通バリアフリー法が成立したが、これらの法律の枠にとどまらず、その理念の実現をめざし、多方面との連携の上で総合的な施策を実施していくことが必要であり、都市基盤整備を進めるうえでの機軸としていくことが求められている。しかしながら、このような取り組みの主役を担う地方自治体においては、都市や交通に関する整備指針が成熟しているとは言いがたく、今後、自治体・住民がわがまちをどうするかという基本命題をしっかり立てることが求められている。

 2000年より「高齢社会における交通システム整備の体系に関する研究小委員会」が土木計画学委員会内に設けられて研究活動を行ってきたが、本セミナーでは、その成果の中から、これからの交通システム整備の基本的な考え方と課題、および具体的な問題とその対応について、紹介する。

  ■主催 土木学会(土木計画学研究委員会 高齢社会における交通システム整備の体系に関する研究小委員会)
  ■共催 長寿科学振興財団、福祉のまちづくり研究会
  ■期日 2001年3月14日(水)9:20〜16:30
  ■会場 飯田橋セントラルプラザ15階 多目的ホール
(住所:新宿区神楽坂河岸1-1,JR総武線飯田橋駅下車 徒歩2分)
  ■プログラム
9:20〜9:30 主催者挨拶
9:30〜10:10 高齢社会の交通システム整備の考え方 三星昭宏
10:10〜10:50 高齢社会の交通システム整備課題の基本的枠組み
横山哲(北海道開発コンサルタント)、大島明(国際航業)
10:50〜11:00 休憩
11:00〜11:40 交通バリアフリーと都市交通のユニバーサルデザイン
秋山哲男(東京都立大学)
11:40〜12:20 福祉コミュニティと公共交通戦略 新田保次(大阪大学)
12:20〜13:20 休憩
13:20〜14:10 討論1 高齢ドライバーの安全対策
木村一裕(秋田大学)、山田稔(茨城大学)
14:10〜15:00 討論2 高齢歩行者の技術的・政策的対策と課題
北川博巳(東京都立老人総合研究所)、坂口陸男(日本道路)
15:00〜15:15 休憩
15:15〜16:30 討論3 介護保険と福祉交通サービス
溝端光雄(東京都立老人総合研究所)、
藤井直人(神奈川リハビリテーション病院)、磯部友彦(中央大学)
16:30〜16:40 閉会挨拶
  ■申込締切 2001年3月7日(水)
  ■定員 100名
  ■参加費 3000円(資料代含む)
  ■申込方法・内容問合せ   住所・氏名・所属・電話・メールをお書きの上下記に申し込みください。
  茨城大学工学部都市システム工学科 山田稔
  Tel:0294-38-5176/Fax:0294-38-5249
  E-mail:yamada@civil.ibaraki.ac.jp

福祉のまちづくり研究会第4回全国大会論文集迫る!

 平成13年度の大会(大会長 寺山久美子)は8月2日、3日の2日間、東京都立保健科学大学を主会場に開催されます。発表論文題目の登録締め切りが3月2日(金)となっています。原稿締め切りは6月1日(金)です。どうぞ奮って登録下さい。

  問い合わせ: 第4回大会プログラム委員会委員長
  溝端光雄:東京都老人総合研究所生活環境部門
  TEL: 03-3694-3241/FAX:03-3579-4776
  大会事務局: 都立保健科学大学 作業療法学科 木之瀬隆
TEL:03-3819-1211/FAX:03-3819-1406

編集後記

 年間4回を目ざす研究会の会誌「福祉のまちづくり研究」の拡大と共に、本ニュースレターと重ならない発行が必要となってきています。ニュースレターはどのように位置付けるか難しい時期ですが、できるだけ速報性を重視して年数回出す予定です。会員の皆様から御寄稿いただければ幸いです。

企画広報委員長 秋山 哲男