発行物

【福祉のまちづくり研究 Vol.2 No.1】


◆ 住宅のバリアフリー化を目指して

野村 歡

 介護保険がいよいよ始まった。マスコミを通じていろいろな角度から介護保険が取り上げられるようになって、国民の関心もようやく高まりつつある。一方で、国会では、公共交通機関や駅前広場を国と地方自治体と事業者が一体となって整備につとめることを柱とした交通バリアフリー法が審議されており、法案成立も間近いようだ。このように福祉のまちづくりに関わる法制度等が国レベルで論議されることは、福祉のまちづくりもようやく国民の生活の中に取り入れられつつある、言い換えればようやく市民権が得られつつあることも意味していてうれしい限りである。ところが、実は国レベルでもう一つ制度化されつつあることがあるが、まだ国民の間であまり話題にあがらないので、ここで簡単にお披露目しておきたいことがある。

 それは昨年6月の国会で、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」が制定され、住宅の構造安全、火災安全、耐久、温熱環境、空気環境、光・視環境、音環境、維持・管理と共に、高齢者居住評価基準が決められたことにある。住宅を新築する者が「この程度の高齢者配慮をするように」と性能レベルを要求すればそれにあわせて設計しなければならないし、一方、住宅購入者の求めに応じて「あなたの住宅は、高齢者が生活するときにはこの程度の居住性能を担保していますよ」といった表示をしなければならないようになる。
その対象は、戸建て、共同に関わらず、新築住宅に適用され、内容は、加齢等に伴う身体機能低下を考慮した移動行為の安全性及び介助行為の容易性の高さに従って評価基準を5ランクに分けている。ランク5〜3は、移動の安全性と介助の容易性との両者についてグレード化を図っている。ランク2は、移動の安全性のみを担保するように考えられている。これは、高齢者の住宅内の家庭内事故が多く発生していることに鑑み、設定されている。ランク1は、建築基準法に記されている安全性を担保すれば良いことになっている。  具体的には戸建て住宅並びに共同住宅の専用住戸の部屋の配置、段差、手すり、通路・出入り口の幅員、階段、寝室・便所・浴室の構造などが、各等級ごとに定められており、共同住宅の共用部分については、共用廊下の構造及び幅員、共用階段の構造、エレベーターについて基準が定められている。

 この高齢者居住評価基準の本当のねらいは、住宅内のいわゆる家庭内事故をなくし安全な生活をおくれるように、また、住宅内で身体機能が低下をした高齢者が安全に移動できると共に介助を必要としている高齢者を介助を容易に受けやすくするための条件を整えようとするものである。このことは医療・保健・福祉と共に住宅の連携が叫ばれているわが国の高齢者施策の基盤整備に関わることであるし、介護保険制度における住宅改修や福祉用具の活用とも密接に関わる点でもある。すなわち、国民がこのような高齢者配慮の住宅に対してさらに関心を高めることによって、介護保険や福祉施策に対しても大きな影響を与えることにもなるが、何よりも大事なことは、高齢になって身体機能が低下をしても尊厳を保って自宅での生活を継続できることにある。これこそ福祉のまちづくりの第1歩といえよう。その意味で、研究会の皆さんには良く理解をして欲しいし、国民の皆さんにもその意義を知らしめて欲しいと願わずにいられない。

◆ 「アミダ仏の源流をたずねて」

向坊弘道著
A5、202貢、樹心社 1,800円+税

 筆者の向坊氏は東京大学文学部1年の時、1959年8月に交通事故により頸髄の4,5番を損傷し、四肢麻痺になり車いすの生活を続けている。また障害者になってから仏教に関心を持ち、仏教について研究を深めている。また実業家でもあり、事業の方でもビルのオーナーとして成功している。

 一方、福祉活動では、フィリピンに「日本人障害者の家」とネパールに「仏教ペンション」を設立し、NPO組織を作り現地スタッフに運営を任している。

 今回紹介する本は、向坊氏がフィリピンから電動車いすと手動車いすに乗って、女性ヘルパー1名と100日間をかけて、タイ、シンガポール、カンボジア、インド、ネパールと仏陀の6大聖地を訪問している。ただし、いずれの地もバリアー・フルであり、例えば、タイのバンコクから空港へは、トラックを借りて、その荷台にヘルパーと電動車いすごと乗り込み、現地の警察に見つからないように裏通りを利用している。またスリランカでは、自動三輪のオートリクシャーの荷台に電動車いすごと乗り込んでいる。写真を見るとフットレストが荷台から飛び出ている。このような状態で10・を往復している。そして霊山へはカゴ担ぎ屋を雇って、1本の棒にハンモックをくくりつけて訪問している。敬虔な信者が行くところはどこへでも行くのである。

 そして宿泊するホテルは現地の人が利用する安ホテルに投宿している。例えば、シンガポールでは、ホットシャワーがついて、エアコン、扇風機、テレビが付いたツインの部屋が4,000円と最低ランクのホテルに泊まっている。インドでは1泊1,500円の裏通りにあるホテルで、窓からは異臭が入ってくるような環境である。移動手段もやすい空港券を現地で手に入れるなどして、100日間で2人の旅行費を100万円に抑えた清貧旅行です。本からは重度障害者が旅をしているとは全く思えない痛快な内容です。 (藤井直人)

◆ 「サイン環境のユニバーサルデザイン」

田中直人・岩田三千子著
B5版 136項 学芸出版社(1999年8月)2,800円+税

 急激な高齢化の波を受けて、バリアフリーという言葉の認知度だ高まっているが、その発想をさらに進めて、高齢者や障害者への配慮だけではなく、あらゆる人を対象とした「ものづくり・まちづくり」である「ユニバーサルデザイン」という概念が近年日本でも広まっている。
本書では、複雑に高度化する都市環境において重要な役割を担っているサインに注目して、ユニバーサルデザインとは何かという問題を提起している。本書で取り上げているサインとは、案内標識や看板だけではなく、生活環境における全般的な事物を対象として考えている。
著者の言葉を拝借すると、ユニバーサルデザインと唱われているものの中には、「バリアフリーデザイン」そのものの実態や内容、課題などを十分に検討することなく、表面的に「ユニバーサルデザイン」の名称に置き換えた取り組みが少なくないのが現状である。 あらゆる人に共通して使いやすいデザインというのは容易なことではなく、具体的な回答が存在している訳ではないが、本書で挙げられている数々の取り組みは、ユニバーサルデザインを計画する際の選択肢の一つして役立つだろう。 本書では、サイン環境を見直し、将来のあるべき姿を示すため、108の視点から計画・設計のためのアドバイスがなされている。前半では、サインの概念から始まり、生理特性別のサイン環境のあり方、著者から起こった調査・実験の結果等を交えながらサイン環境計画に関する基礎的知見を提示している。後半では、国内外の事例を紹介しながら、ユニバーサルデザインのサイン計画を実現させるための手がかりを示している。全般的に、写真やイラストを多用した構成となっており、理解しやすい書となっている。(前川佳史)