発行物

【福祉のまちづくり研究 Vol.1 No.2】


◆ リハビリテーションの心と福祉のまちづくり

澤村誠志

 介護保険の導入を目前に控えて、介護のニーズを出来るだけ軽減するための機能回復訓練としてのリハビリテーションの重要性が認識されつつある。しかし、リハビリテーションの真の心は、もっと広く深い意味を持ち、障害があったとしても、人間としての尊厳や権利が守られ差別を受けない社会づくりに通じている。たとえ、障害により介護を必要とするようになっても住み慣れたところで、そこに住む人々とともに生き生きと住み続けることの出来る地域でありたい。これが、地域リハビリテーションの理念である。従って、これには、住む場所や周辺の環境を含めてハード面での障害を取り除くとともに、障害のある人々が地域のケアのなかで住み、さらに、社会参加をするためのソフト面での対応がなくてはならない。

 私は、昭和35年から年間50回に亘る兵庫県下での身体障害者の巡回移動相談を通じて、多くの障害のある人々の生き様から多くのことを学んできた。その意味では、まさに地域こそが私の先生であり、教科書である。私の最終的な地域リハビリテーションのゴールはノーマライゼーションにあり、最後の決め手となるのは、住む場所の確保と24時間の総合ケア、そして、バリアフリーの社会づくりであると思っている。特に、ハード面におけるバリアフリーからさらに進んで、ユニバーサルデザインの住宅と福祉のまちづくり、そして、ソフト面での24時間総合ケアサービスシステムとかけこみ寺の存在にあると信じている。昭和47年に神戸市の中心街での調査を行い、これが神戸市の「神戸市民の福祉を守る条例(1975)」による都市施設の整備に関する規制の制定につながった。昭和47年当時は、デパートの入り口に段差があり、車いす利用者用のトイレが皆無に近く、外出が出来なかった時代である。国鉄の改札口で切符の販売を拒否されたり、バスの乗車を拒否されたことが社会問題として深刻化した時代であった。これに対応する施策の不備と縦割り行政の弊害、自治体の要綱、指針などの法的拘束力が際だっていた時代でもあった。しかし、その後、国内外の福祉のまちづくりを求める当事者の運動が展開され、1990年に制定されたADAなど、いわゆる公共施設へのアクセスや雇用、教育などの機会均等の動きがわが国の法制化の必要性に拍車をかけた。さらに、ノーマライゼーションを目指す地域リハビリテーションの理念と施策の展開が、福祉のまちづくり施策を進展させる原動力の一つとなってきている。

 福祉のまちづくりにはいろいろな考え方がある。都道府県における条例やハートビル法にあるように、教育施設のエレベーターや面積規則による日常生活施設を除外しているように、どちらかと言えば、物理的な点的環境整備に偏重したものが狭義の福祉のまちづくりと言える。本福祉のまちづくり研究会の会員の多くは、ハード面でのエキスパートと思われるが、皆様に出来れば、ハード面とともにソフト面でのリハビリテーションの心をさらに持っていただきたい。特に、保健、医療、福祉ネットワークの拠点づくり、ボランティアなど市民活動を巻き込んだ心豊かなまちづくりを目指していきたいと願っている。本研究会が出発して4年目を迎え、組織や行動が徐々に成熟しつつある。特に、総務、企画、広報、論文、会誌編集、国際の各委員会が活発に活動されていることに敬意を表したい。

 今後、この研究会が学会へと発展し、建設、運輸、厚生など各省庁との連携を密にしながら、福祉のまちづくりに積極的な提言を重ねていくことが大切であろう。そして、さらに進んで、わが国における福祉のまちづくりの国際的な情報発信起点としてグローバルな役割を果たす時代が、一日も早く来ることを望んで止まない。

◆ 第1回講習会「車いすと道路・公共交通」

藤井直人

日 時:1999年7月2日(金) 午後1:30〜4:30
場 所:飯田橋セントラルプラザ15F 多目的室
新宿区神楽河岸1-1(場所の問い合わせのみ:和田さん03-3235-8577)
交 通:JR総武線 飯田橋下車 徒歩2分
内 容:障害者・高齢者の自立支援において、リハ工学は利用者の身体機能を補助することを主に考慮し設計した補助器具、具体的に「車いす」に対して生活環境をどのように考慮していかなければならないのかを話題の中心として以下の講師に講義していただく。

申込先:神奈川県総合リハビリテーション研究・研修所 研究部リハ工学研究室 藤井直人

〒243-0121 神奈川県厚木市七沢516
Tel:0462-49-2590 Fax:0462-49-2598 E-mail:fujii@swan.syscom.ne.jp
締め切り:6月20日 先着80名
資料代 会員2,000円 非会員3,000円

◆ 第2回講習会「歩行空間とバリアフリー」

秋山哲男

日 時:1999年8月31日(火)午後1:30〜4:30
場 所:飯田橋セントラルプラザ 15F 多目的室
交 通:JR総武線 飯田橋下車 徒歩2分
    新宿区神楽河岸1-1
内 容:高齢者・障害者の福祉のまちづくりとその中心をなす歩行空間の考え方・設計手法・設計の事例・民参加など、歩行空間のガイドラインを中心に講習する。

申込先:東京都立大学 工学研究科土木工学専攻 秋山 哲男

〒192-03 八王子市南大沢1-1
Tel:0426-77-1111(4543)Fax:0426-77-2772 E-mail:akiyama-tetsuo@c.metro-u.ac.jp
締め切り:7月31日、先着80名
資料代 会員2,000円 非会員3,000円

◆ 第3回講習会「介護保険制度と福祉サービス」

小山聡子

日 時:1999年9月18日(土)午後1:30〜4:30
場 所:飯田橋セントラルプラザ 15F 多目的室
交 通:JR総武線 飯田橋下車 徒歩2分
内 容:介護保険制度の実施により、福祉のサービスの提供システムにどのような影響が出てくるのかについて考える。社会福祉行政論からみた制度の意義、サービス利用支援システムとしてのケアマネジメント、新しいサービス提供システムにおける民間組織の役割等について以下の講師に講義いただく。

申込先:日本女子大学人間社会学部社会福祉学科 小山 聡子

〒214-8565 神奈川県川崎市多摩区西生田1-1-1
Tel:044-952-6850 Fax:044-952-6869 E-mail:oyamas@ikuta.jwu.ac.jp
資料代 会員2,000円 非会員3,000円

◆ 「図解バリアフリー百科」

日比野正己著
A4変形版、232貢、TBSブリタニカ 2,850円+税

 快著である。何故なら、バリアフリーと聞くと、高齢者や障害を持つ人びとの生活環境を論ずることになるから、どうしてもシリアスな内容になってしまうのだが、本書は単なる理解をさせることを超えて、楽しい読み物にしてしまったのだから。

 さらに、本書の特徴は、著者日比野さん独自の構成とその読みやすさにある。全体を、福祉・医療・情報・看護などの融合をねらった「バリアフリー考現学」、自由・自在に活用できるマニュアルとしての「バリアフリーデザイン術」、HM(ご自身のことを指す)教授法と称する「バリアフリー発想法」の3部構成とし、全体を100項目に分けて図解入りの分かりやすい読み物にしている。また、著者自らこの本の特徴を、「バリアフリーの全体像をまとめたこと」「さまざまな分野のバリアフリー現象の事例をまとめたこと」「物のバリアフリーから心のバリアフリーまで対象にしたこと」「バリアフリーデザインのポイントを実用的なシステム表と写真入りで紹介したこと」「バリアフリーデザインの図版を豊富に収録したこと」「工学系から福祉・医療に至るまでの発想豊かなデザイン教育法を初公開したこと」「美しいカラー刷りを多く使用したこと」「文献や資料リストを掲載したこと」「バリアフリー学の体系化を目指した理論構成をしたこと」「バリアフリーを楽しく応用編集できるスーパー見開きをしたこと」等々を挙げている。

 著者日比野さんは、この方面の研究者のパイオニアの一人であり、私の旧くからの研究仲間であり、友人でもある。情報集積地の東京から遠く離れて、九州・長崎県で地道に地域活動を実践し、確実に成果を挙げている。バリアフリーをわかりやすく、広く理解できる意味で、多くのみなさんに読んでいただきたい。 (野村歓)

◆ 「バリアフリー社会の創造」

齊場三十四著
193頁 明石書店(1999年3月12日) 1,800円+税

 「うん、うん。」「そうなんだよなァー。」と頷いているうちに、ついつい引き込まれ、ふと気がつくと、夜の更けるのも忘れて、一気に読み終えていました。うん、うんと私が頷いた、その理由は、著者は、自ら「はじめに」において書いておられるように、「私は脳性麻痺であり、松葉杖障害者として50数年生きてきた」人であり、一方で、私は脊髄性小児麻痺による車イス障害者であることから、利用者としてバリアフリー環境を見つめる目線が、これは偶然なのですが、似通っていたためなのです。

 本書は、著者の言葉を拝借すれば、「利用者の視点を中心にすえて、バリアフリー化の現状を紹介・分析しながら、21世紀のバリアフリー社会の創造について若干の意見を述べ」たものです。

 私の読後感をずばりと言わせていただくと、よくぞ言って下さったの一語につきます。

 「社会生活へのアクセスを見聞きする時、バリアフリー化が進み便利になったとはいえ、車椅子での一人旅を考えると、余程決心し、挑戦的な意志でアプローチしなければ困難な気がして仕方がない。」、これ、同感です。「戦後50年間の福祉の歩みを見る限り、障害者はいつも恩恵の対象であって、主体者にはなり得ていないことを感じている…」、これもまた、同感です。「障害があろうとなかろうと、同じ空気を呼吸し、この世で共に生きる存在として認めて欲しい、との願いを実現するためにも、バリアフリーは大切である。」、これもまたまた、同感です。

 ところで一方、著者からは、「社会構成を考えると、現状のバリアフリー化も、これまでの視覚障害者や車椅子使用者への対応に限局する方向でなく、多種のハンディに対応したバリアフリー化を考えていかなければならない。」との指摘がなされています。私は、車イス障害者の一人として著者のこの指摘に耳を傾けたいと思います。  (村田稔)